パソコンやワープロにキーボード入力を行う際に、キーボード面の文字刻印に頼ることなく、指先の感覚だけを頼りにしてキーを叩くタイピング技法。かつてはブラインドタッチと呼ばれたこともあり、現在でも呼ばれることがあるが、一般的にはタッチタイピング(タッチタイプ)が使われる。タッチメソッドとも呼ばれる。
日本ではタイプライターの打鍵法教育用に、touch method の直訳である「触鍵法」という漢字熟語が使われていた。見ながら打つ方法は sight method の直訳である「視鍵法」と呼ばれ、触覚と視覚の対比となっていた。その後、日本語ワードプロセッサー専用機の普及とともに、和製英語のブラインドタッチ (blind touch) という言い方が使われ出したものの、次第にパソコンへの移行が進み、ワープロ専用機が衰退した1990年代半ば以降を境に、もとの「触鍵法」に由来する、タッチタイピングという言葉が一般的となった。
「ブラインドタッチ」という言葉への置き換えが進まなかった理由として、一部でブラインド(=盲目)という表現が差別的ではないかとの指摘がなされたが、必ずしも差別的ニュアンスがあるわけではない。実際にはblind という単語が「見ないで(何かを行う)」という意味を含んでおり、中国語では現在も「盲打」と呼ばれ、全盲のアマチュア無線愛好家は「ブラインド・ハム」と呼ばれる。また、「ブラインドタッチ」が和製英語であるために、前後の脈絡なしには伝わらない熟語であることも影響している。
特徴
利点
キーボードを見ながら打つのに比べて入力速度があがる。
タイピングミスにより早く気付く。
視点を移動する必要がないため、視点移動による眼精疲労が抑えられる。特に、チャットやテープ起こしなど原稿が不要な場合に効果を発揮する。
欠点
習得までには当然多少の努力と時間を必要とし、一旦サイトメソッドに慣れてしまった人は、タッチタイピングを習得するまでの間、一時的にかえって入力が遅くなってしまうことが多い。
普段慣れているものと異なるキー間隔の機械を打つ場合、打ち間違いが発生しやすくなる。
原稿からの入力
手書き原稿や印刷物から入力する場合、多くの利用者は日本語入力にかな漢字変換を採用しているため、漢字の変換結果をモニタ上で確認しなければならず、原稿台(データホルダー)を用いて原稿をモニタの隣などの近い場所に置くのが関の山である。このような場合は、変換学習を無効にすることで、変換キーを同じ回数だけ押せば常に同じ漢字が出るようにする
ツータッチ入力などに代表される漢字直接入力で入力する
などの方法を用いることでモニタを見ずに印刷物の印字面だけに注視した入力が可能となる。なお、後者の方法はデータエントリー系の会社で実際に行っている方法である。
習得段階
タッチタイピングの習得は大きく二つの段階に分けられる。
初期 – キー配列の記憶と指の動きの習得
後期 – 打鍵の無意識化
「初期」の段階でもタッチタイピングと呼べるが、速度が遅く疲労も激しいので、タッチタイピングの利点が享受できるのは後期の段階まで習得が進んでからである。打鍵の無意識化とは、入力すべき文字に対応するキーの位置や指の役割分担を思い浮かべることなく、即座に指が動くようになることである。また、頻出語や語尾は一連の指の動きとして塊として記憶されるようになる。
後記の段階では、例えばかな入力の場合は「た」の文字を入力する際、ホームポジションを基準としたキーの位置関係や指の役割分担を意識することなく、「た」を打鍵することができるようになる。これは英字入力においても同様である。また、ローマ字入力では、打鍵の無意識化に加えて「た」の文字をTと A に分解することも無意識に行うことができるようになる。また、かな入力、ローマ字入力、英字入力を問わず、頻出語や慣用句については指が打鍵の順番を覚えるようになる。